15 分後の世界
一九九九年の三月一二日、喫煙者と禁煙者の対立が激しくなる。同、六月、禁煙者集団『青い地球の会』は喫煙者に対し無差別テロを起こすと声明を発表。同、二分後喫煙者集団『紫煙の会』は『青い地球の会』東神奈川支部を強襲、爆破。軽傷十六人、死亡一人。日本たばこ産業と国は、事態を重く見てたが現在対応は遅れている。
これは喫煙者と禁煙者の戦いの記録である。
「十五分後の世界」
「凪山!凪山!どこだ?返事をしろ!」
中瀬川商店街の煙草販売員『松谷クメ』(八十七歳)を護衛する任務はほぼ失敗と言ってよかった。俺達、紫煙の会、第七機動部隊は中瀬川商店街のたばこ屋にたどり着く前に青い地球の会の奇襲を側面に受けて、瓦解寸前であった。
俺の右脇でグレネードが爆発する。この作戦は失敗だ。素早く撤退するのが正しい判断だろう。他の隊員達は各自判断で即時撤退していったが、俺は凪山を探していた。
凪山は今年二十になったばかりの新参者の喫煙者だ。頬を赤くしてタール6mgのマイセンを吸う姿は誰の目にも好ましく映った。
「俺、今度結婚するんですよ」
凪山は作戦前にそう言って俺達に横浜のコンビニエンスストアのアルバイトだという女の子の写真を見せた。
「凪山!凪山!」
硝煙が立ちこめる中で俺は叫び続けた。
「・・・稲葉さん」
いた。
凪山はサントリーの自動販売機の脇に倒れていた。俺は姿勢を低くして迅速に凪山のところまで移動すると、凪山を見た。グレネードが直撃したのか凪山の右足は吹っ飛んでいた。脇腹からは黒いどろりとした血が流れている。俺はナイフでズボンを引き裂くと右足にガーゼを当てビニールテープで縛った。
「・・・稲葉さん、俺・・・もう駄目です」
俺は首を振ると、喋るなと合図した。脇腹にはグレネードで吹き飛ばされたときの破片が突き刺さっているようだった。
凪山は死ぬ。
俺は底にも白いガーゼを当てて、ビニールテープで応急処置をした。ガーゼは見る見るまに赤く染まっていった。
「大丈夫だ、お前は死なない」
涙で凪山の顔が歪む。
「稲葉さん、稲葉さんともあろう方がそんなことを言うなんて」
「すまん・・・あと十五分ほどでお前は死ぬだろう」
「ははは、やっぱり・・・なんか今日は嫌な予感がしたんですよね・・・この三ヶ月間、楽しかったですよ」
「凪山、もう喋るな」
「・・・一緒に煙草吸える仲間なんて、いままでいなかったですから」
凪山は咳き込むと苦痛に顔を歪めた。
「まさか自分がこんな風になるなんて、思ってもみませんでしたよ・・・最後にいいですか?」
俺は頷くと、凪山の胸ポケットから潰れたマイセンを取り出した。銀色のジッポライターで火を付けて、一口吸い込むと凪山の口にくわえさせてやった。
「ああ、いままでで一番美味い煙草ですよ・・・」
凪山はそう言って煙を吐き出した。
「もうすぐ彼奴等がここに来ます・・・稲葉さんは早く逃げてください」
凪山はにやりと笑うと、背嚢から手榴弾を取り出した。
「いつか、煙草が堂々と吸える日が来るといいですね」
「そうだな・・・」
俺はその場所から走り去ると、禁煙者を皆殺しにしてやると誓った。